「ネットヤミ金」横行 超高金利・下着写真を要求…個人間のトラブル増

ニュース内容

インターネットの掲示板で客を探し、無登録で融資を繰り返したとして萩市の男性自衛官が広島県警に逮捕される事件があった。女性を狙い、遊ぶ金欲しさから超高金利で利息を稼ぎ、下着の写真を要求することもあったという。面識のない人同士が金を貸し借りするネット上の個人間融資。性犯罪の被害も生みかねない「ネットヤミ金」の危うい実態が浮かんだ。

県警によると、自衛官が主に使っていた掲示板「レンタルキャッシュ」。19日、記者がトップページを開くと、「広島県に住む38歳の専業主婦」と名乗る書き込みが出てきた。

「希望額は5万円。用途は家のローンなどの支払い」「ギリギリまで金策をしたのですが、なかなかお金がつくれず投稿してしまいました」

この投稿には、連絡先のメールアドレスや月収、身分証明書として社会保険証と年金手帳があることも記されていた。掲示板は公開されており、誰でも見られる。書き込みを見て「融資したい」と思った人がメールで連絡し、後は個別にやりとりする仕組みだ。

記者が3日間掲示板を見た限りでは、全国各地の男女から1日30~40件の投稿があった。融資希望額は1万円程度から数百万円と幅広く20~30代が多い。「自己破産して金融機関から借りられない」「病気で働けず家賃が払えない」と困窮を訴える記述もあった。

▽既婚女性を狙う

県警によると、逮捕された自衛官は5~6年前、この掲示板を見て「自分でもできる」と融資を開始。逃げるのが難しく貸し倒れのリスクが少ないとして、子どものいる既婚者の女性に絞り、健康保険証などの写しを身分証として送らせた上で現金を振り込んでいた。最初は少額で貸し、相手の返済状況に応じて貸付額を上げていたという。

県警は、自衛官は全国各地の約110人に金を貸し、総額は約1100万円に上るとみている。捜査関係者によると、担保として下着の写真も送らせたこともあった。

国民生活センターによると、こうした個人間融資がネット上で広がり、トラブルの相談が増えつつある。「15万円を借りたら利息が付いて400万円以上になった」「保証金として先に5万円を払ったが、その後連絡が取れなくなった」といった相談は2011~17年度は年に数件だったが、18年度は約20件に増えた。センターは「借り手には後ろめたさがあり、相談しにくい状況もある。相談件数は氷山の一角」とみる。

▽規制で借入先減

ツイッターでは、「お金でお困りの方はご相談下さい」などと書き込み、直接メッセージをやりとりするように促す投稿が目立つ。性交渉を条件に金を貸し付ける「ひととき融資」の書き込みも横行している。金融庁は11月から対策を強化し、ツイッターで融資を持ち掛ける投稿者に注意のメールを送っている。

日本貸金業協会によるとネット上で個人間融資が広がる背景には、貸金業法改正で10年から貸金業者の貸付金利が引き下げられ、貸付上限額も借り手の年収の3分の1に減らされたことがあるという。規制の強化で中小の貸金業者が市場から撤退し、身近な借入先が減ったという。協会は、金融業者から借りられない多重債務者たちが個人間融資に頼っているとみる。

消費者問題に詳しい広島弁護士会の中村健太弁護士は「かつては街中の電柱などに街金などのビラが張られていたが、今は顧客獲得手段がSNS(会員制交流サイト)に移行している」と指摘。「ネットの個人間融資にもヤミ金が潜み、法定利息を上回る額を請求されたり、厳しく取り立てられたりするケースがある。安易に利用しないでほしい」と強調する。(中川雅晴、今井裕希)

<クリック>自衛官による「ネットヤミ金」事件 2017年5月~19年8月に7回にわたり、大阪市内の無職女性(46)たち女性4人に無登録で計9万円を貸し、法定の8・1倍の利息計4万5千円を受け取ったとして、広島中央署などが11月に萩市の航空自衛隊員(40)を出資法違反(超高金利)などの疑いで逮捕した。自衛官は容疑を認め、広島区検は今月18日に同法違反罪などで略式起訴し、広島簡裁は罰金30万円の略式命令を出した。

2019/12/30  中國新聞

弁護士からのコメント

そもそも「ヤミ金(ヤミ金融業者)」とは、本来、行政に対して登録が必要な貸金業を無登録で営む業者のことをいい、最近では、登録業者であっても、法律に違反するような高金利で貸付けを行ったり、悪質な取立てを行ったりする業者も含まれるとされています。

今回のニュースにあるよう、従来は紹介や電話、ビラ・チラシでの勧誘が主流でしたが、現在はSNS上で勧誘が横行しています。
それゆえ、インターネット上で勧誘が行われているヤミ金について「ネットヤミ金」といわれている所以だと思われます。

このSNSによる勧誘で、先に保証金・登録料や利息の前払いなどが必要だからと一定の金額を支払わせ、実際にはお金を貸さずに騙し取る「個人間融資詐欺」「SNS融資詐欺」については、下記ページで解説しているのでご参照ください。

一方、今回のニュースでは、実際にお金は貸しているものの、それが法律違反になることを以下説明いたします。

まず個人であろうが、反復継続の意思で金銭の貸付けを行うことは、貸金業法上の「貸金業」にあたり、国又は都道府県の登録を受ける必要があります。

ですので、上記登録を受ける必要があるにもかかわらず無登録で貸金業を行っている点で、「貸金業の無登録営業」として法律違反となります。
そして貸金業を無登録で営業すると、10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金という刑罰の対象になります。

次に、不特定多数の人が閲覧できるSNS等で「お金を貸します」、「融資します」などと投稿して、契約の締結を誘うことは、貸金業法で規制されている「貸金業を営む目的をもって、貸付けの契約の締結について勧誘をすること」にあたります。

この「無登録業者による勧誘」も刑罰の対象となっており、2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金とされています。

さらに、法定の8・1倍の利息を受け取ったことは、出資法で制限されている「貸金業者(無登録業者を含む)が、年109.5パーセント(1日当たり0.3パーセント)を超える割合による利息の契約をし、若しくは受領し、又はその支払を要求すること」にあたります。

こちら「出資法違反の超高金利」も刑罰の対象で、10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金とされています。

他にも、今回のニュースでは触れられていませんが、下着の写真について、たとえば「お金を貸していることを家族や友人にバラす」などと脅迫し提出させた場合には強要罪(刑法223条)、そして入手した下着の写真を「ネット上に公開・拡散する」などと脅迫し返済を受けた場合には恐喝罪(刑法249条)にも該当すると思われます。

なお、一般に男性が女性に対して性交渉を条件にお金を貸し付ける「ひととき融資」も今回のニュースで挙げられています。

この「ひととき融資」も、法定内の金利による貸付であろうが「貸金業の無登録営業」及び「無登録業者による勧誘」にあたり、刑罰の対象になります。

「ネットヤミ金」に遭わない対策としては、たとえSNS上に甘い言葉で勧誘があり、現状お金に困窮していたとしても、絶対に手を出さないようにしましょう。

そもそもお金を貸してくれないという「個人間融資詐欺」「SNS融資詐欺」の可能性はもちろんのこと、お金を貸してくれたとしても「出資法違反の超高金利」であったり、「ひととき融資」であることのほか、とられた個人情報が悪用されて、さらなる犯罪やトラブルなどの二次被害に遭う危険性まであります。

最後に、「ネットヤミ金」「ひととき融資」など個人間融資でトラブルにあった際には、遠慮なく当事務所にご相談ください。

Bio

弁護士 刈谷龍太

グラディアトル法律事務所代表弁護士。
中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。
離婚・労働・ネット・消費者被害など一般向けのトラブルから、企業法務や経営サポートなど幅広く担当。