<みなぶん>悪質求人サイトを「詐欺」と批判 運営会社が告訴 被害者一転「容疑者」に

ニュース内容

警察の捜査を受けている―。特報班が、無料とうたって高額の掲載料を請求する求人広告サイトの問題を報じた後、記事を読んだ東京都の教育関連会社の責任者である40代男性から連絡が入った。自身も請求され、被害拡大を防ごうと他の広告主に注意を呼び掛けたら、サイトの運営会社から「信用を傷つけられた」と告訴されたという。

記事は9月1日に掲載。契約書類に小さな字で「自動で有料に移行」との注意書きを記す手法や相次ぐトラブルを伝えた。この記事を知った男性は同21日に連絡を寄せ、記者に「警察から昨日、『あなたを書類送検する見込みだ』と言われた」と当惑気味に話した。

■48万円請求

男性は3月、横浜のサイト運営会社から「提携する大手サイトにも載せられる」と勧誘され、3週間の無料期間限定で広告の掲載を依頼。だが大手との提携の事実はなかった。無料期間の終了直前に解約を申し入れたが、契約書に小さく書かれた「解約は無料期間終了日の4日前まで」との条項に気づけず、掲載料48万円の支払いを要求された。

「絶対に払わせる」との電話は鳴りやまない。警察や消費者センターは対応せず、弁護士を通してようやく拒否できた。この間、多額の掲載料の支払いを余儀なくされた広告主が全国にいるとネット上の掲示板で知った。「被害を食い止めたい」と、同じサイトに広告を載せた広告主にメールを送り、解約を促した。

■信用毀損罪

9月20日、神奈川県警から男性に「関西の飲食店に『あなたが求人広告を出したサイトは詐欺だ』とメールしましたね」と電話があった。同27日には捜査員2人が男性の職場を訪れ、運営会社の告訴を受け、送検する方針だと直接伝えた。容疑は信用毀損(きそん)罪。虚偽のうわさを流すなどして他人の信用を損ねる犯罪だ。

男性は「警察が取り締まるべきなのは悪質サイト」と反論。捜査員は「気持ちは重々分かる」と理解しながらも、「他の方法を取るべきだった」と繰り返した。
男性は今月12日、警察の求めで出頭した。今も任意捜査が続く。送検時には起訴を求めない「寛大処分」の意見が付く見込みと暗に伝えられており、実際には罪に問われない可能性が高い。だが、男性は納得できない。「『虚偽のうわさ』ではなく、被害を防ぐため事実を伝えただけなのに」

男性を訴えた運営会社にも取材を申し込んだが、「責任者がいない」と拒否。その後、10月末には固定電話が解約され、サイトも閉鎖されていた。

同様の告訴をほのめかす運営会社は他にもある。悪質サイトの問題に詳しい川村忠之弁護士(札幌)は「問題意識が広がり利益を上げにくくなるのを避けようと強硬な態度を取るようになった」と推測。「主張を認めれば『お墨付き』を与えることになり、悪質な営業を助長する。検察や裁判所はトラブルが多発している現状を踏まえ、慎重に判断すべきだ」と訴える。

東京に住む男性が北海道新聞の記事を知ったのは、同じ被害に遭いかけた道央の40代男性とネット上で知り合ったのがきっかけだ。道央の男性もこれまで、怪しいサイトに求人広告を載せる100社以上に注意を喚起した。「被害者が増えるのを黙って見ていられない」と話す。悪質サイトを規制する抜本策が取られない中、男性は告訴のリスクを承知の上、今後も独自に呼び掛けを続けるという。(角田悠馬)

<ことば>求人広告サイトを巡る問題 無料をうたう無名の求人広告サイトから、広告掲載後に高額な掲載料を請求される問題。悪質サイトは数十件あるとされ、昨年ごろから全国でサイトの運営会社と広告主の間のトラブルが相次ぐ。全国で続く深刻な人手不足を背景に、法的問題への対応に慣れていない中小事業者が狙われているとみられ、一部の運営会社は掲載料の支払いを求めて広告主相手に民事訴訟を起こしている。日本弁護士連合会は、トラブルに関する相談を中小事業者向け相談窓口「ひまわりほっとダイヤル」(電)0570・001・240で受け付けている。

11/27 05:00 北海道新聞

弁護士からのコメント

今回のニュースにあるよう、「悪質求人サイト詐欺」といえるトラブルが急増しています。

実際に当事務所においても、「悪質求人サイト詐欺」に関する相談が、今年初めの頃から増えてきています。

基本的にすべて同じような手口で、無料を謳う求人サイトから営業の電話がかかってきて、無料ならと思い掲載の申込を行うと、一定期間の経過後に有料分の広告費用が請求されるというものです。

複数の相談者曰く、無料と聞いていたのにと相手方に伝えると、申込書や確認書に一定期間経過後は自動で有料更新との記載があるのでとの一点張り。

当然、申込が完了するまで一定期間経過後有料になるとの案内はなく、相手方に請求されてはじめて、小さな文字でその旨の記載があることに気づいたというのがほとんどです。

このような、いわゆる「悪質求人サイト詐欺」については、人手不足という現状を背景に、求人広告の掲載等に不慣れな企業や個人事情主をターゲットにして行われている模様です。

「悪質求人サイト詐欺」の質の悪いところは、書面上は相手方の記載内容に問題がないため、法的には相手方に請求権が発生してしまっている点です。

また、請求金額も20万~30万レベルの場合が多く、弁護士に相談や依頼して解決するまでにはいかず、ある意味自らにも落ち度があったとして、いわば泣き寝入りの状態になっているという現実問題もあります。

「悪質求人サイト詐欺」に遭わない対策としては、無料など掲載の条件が良ければ良いほど、掲載について何か裏がないか慎重に判断すべきでしょう。

というのも、仮に大手の真っ当な求人サイトに掲載すれば、それなりの広告費用が発生するのが現実です。
それゆえ、その広告費用を無料にするなどの有利な条件がある際には、相手方としてはそれに見合う対価をもらえることがあってはじめて行えるといえるからです。

ですので、自らに有利な条件であればあるほど、それに見合う対価が何かをしっかりと確認し、腑に落ちない点が少しでもあれば申込みはしないようにすべきです。
場合によっては、申込前の段階で弁護士に相談するのも1つの手段です。

有料相談費用がかかったとしても、弁護士からのアドバイスにより、「悪質求人サイト詐欺」 の疑いが強い場合には申込みをを防げる分、結果として安く済むことになりますし、今後同様な相手方からの勧誘に対しても、毅然と処理できるようになるからです。

なお、今回のニュースにあるよう、「悪質求人サイト詐欺」に遭った事実について、たとえそれが真実であったとしてもネット等に書き込むことは、信用毀損罪のほか、名誉毀損罪や業務妨害罪で告訴される等のリスクがあることは注意が必要です。

自らが被害に遭ったことにより他の被害者が出ないよう食い止めたいとの気持ちは重々理解できますが、書き込む内容によっては上記リスクは避けられないので、そうであればマスコミや消費者センターなどにまずは伝えるべきといえます。

あくまで私見ですが、「悪質求人サイト詐欺」 については、ある意味法の抜け穴を巧みに利用しているともいえますので、今後被害が増えていかないよう、早急に法が整備されることを切に望みます。

最後に、 「悪質求人サイト詐欺」 に遭ったと思った際には、遠慮なく当事務所までご連絡ください。

Bio

弁護士 刈谷龍太

グラディアトル法律事務所代表弁護士。
中央大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。
離婚・労働・ネット・消費者被害など一般向けのトラブルから、企業法務や経営サポートなど幅広く担当。